神経因性膀胱
神経因性膀胱とは
神経因性膀胱は、脳・脊髄の中枢神経や、脊髄から膀胱までの末梢神経が原因となり、膀胱にしっかりと尿をためられなくなったり、正常な排尿ができなくなったりする病気です。
膀胱には、①尿を一定量ためておく、②適切なタイミングで排尿させる、という2つの働きがあります。
この膀胱の働きは、脳や脊髄などの神経によって調整されています。
①尿を一定量ためておく
膀胱は通常、200-400mlほど尿がたまります。
膀胱にたまった尿の量が400mLをこえると、膀胱の圧が上がります。
この刺激が神経を通って脳に伝えられて「おしっこに行きたい」と感じます。
トイレが近くになくて「おしっこをガマンしよう」と頭で考えると、脳が神経を通して、膀胱をゆるめて膨らませて、同時に尿道をしめて尿が出ないように命令します。
排尿をガマンした後に排尿しようとしてもすぐに出ないのは、大量の尿によってゆるめられた膀胱の筋肉が、再び収縮するのに時間がかかるからです。
②適切なタイミングで排尿させる
尿をガマンした状態でトイレに行って「さあ、おしっこを出そう」と考えると、脳から神経を通って「尿を出しなさい」という指示が膀胱に伝わります。
すると膀胱が尿を押し出し、同時に膀胱の出口が開いて尿が出ます。
排尿の後には膀胱の中は空っぽになります。
排尿に関わる脳や脊髄などの神経のどこかに異常があると、上で説明した膀胱の2つの働きが正常に機能しなくなります。
尿がたまっていても頭でたまっていることが分からなくなって尿を出せない、尿がたまる前に排尿してしまう、などの排尿のトラブルが起こります。
この状態を神経因性膀胱といいます。
原因
神経因性膀胱を起こす可能性のある病気は多岐にわたりますが、その症状は、原因となる神経疾患の部位によって変わります。
一般的には、第2の排尿中枢(脊髄の仙髄にある)より病変が上方にあるか下方にあるかで症状が変わります。
脳に異常が生じる病気 | 脳血管障害(脳梗塞や脳出血)、アルツハイマー病、パーキンソン病など |
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脊髄に生じる病気 | 脊髄損傷、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊椎管狭窄症など |
これらの病気は仙髄排尿中枢より上方にあります。
尿を十分ためることができず、尿の回数が増えたり(頻尿)、尿がもれたりする、過活動膀胱と同じ症状になります。
脊髄損傷では、少しでも尿がたまると膀胱がけいれんを起こすように収縮して尿が勝手にもれ出てしまうことがあります。
末梢神経(脳・脊髄と膀胱のあいだをつないている)に 異常が生じる病気 |
糖尿病、直腸がん・子宮がん手術による末梢神経損傷など |
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末梢神経は排尿に関わる情報の通り道です。
末梢神経を通して、膀胱は尿をためたり、しっかりと尿を出し切ることができます。
末梢神経に異常が生じると、膀胱の知覚や収縮する働きが弱くなり、尿を全て出しきれずに大量の尿が膀胱にたまることがあります(尿閉)。
また、尿意を感じることができず、知らぬ間に尿がもれてしまうことがあります(溢流性尿失禁)。
症状
上で説明しましたが、以下のような症状が主にあげられます。
- 尿の回数が多い(頻尿)
- トイレまで尿が間に合わない(切迫性尿失禁)
- 大量の尿が膀胱にたまる(尿閉)
膀胱に尿がたまってしまう状態(尿閉)が続くと、尿路感染症が起こる可能性もあります。
さらに残尿が増えると、尿は尿管をさかのぼって腎盂まで到達し、水腎症を引き起こすこともあります。
この場合には腎臓の機能が損なわれ、腎不全になることもあります。
検査と診断
問診
神経因性膀胱の診断には、排尿症状を聞き取るだけでなく、排尿障害に関わる神経の病気がないか診察します。
他に神経因性膀胱の原因となるような病気がないか、過去に直腸や子宮の手術を受けたことがないか、膀胱をゆるめるような副作用のある薬を飲んでいないかなど、聞きます。
風邪薬、睡眠薬、安定剤、不整脈の薬、などは膀胱をゆるめる副作用があります。
尿検査 | 細菌感染がないか調べる |
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残尿測定 | 残尿がないか、尿閉になってないか調べる |
尿流動態検査(ウロダイナミクス) | 膀胱や尿道の神経の働きを調べる検査です。 |
また、超音波検査・血液検査・膀胱鏡検査なども行うことがあります。
治療
神経因性膀胱の治療は、どのような障害が起こっているかによって変わります。
尿がためられないタイプ(蓄尿障害)には、膀胱を緩める薬を使うなど過活動膀胱に準じた治療を主に行います。
尿道を締める筋肉(尿道括約筋)が弱くなり腹圧性尿失禁がある場合には、人工尿道括約筋埋め込み術を行うこともあります。
進行して膀胱が小さくなってしまった場合(萎縮膀胱)には、腸管を使った膀胱拡大術という手術を行うこともあります。
たくさんたまっていても尿をスムーズに出せなくなるタイプ(排尿障害)には、膀胱をしっかり収縮させる薬を使いますが、あまり効果がないです。
そのため、間欠的自己導尿が標準的治療となります。
間欠的自己導尿とは、自分であるいは家族の人が、時間を決めて尿道から管(カテーテル)を入れて膀胱の尿を出して、全部出し切ったらカテーテルを抜くという排尿管理方法です。
その方法に慣れるまで時間がかかるので、泌尿器科で指導や管理を行います。
間欠的自己導尿の習得が難しい患者さまは、尿道留置カテーテル(バルンカテーテル)を入れたまま生活したり、膀胱瘻(新しい尿の出口を下腹部につくる)を作成したりします。
これらの処置や治療を行いながら、尿路感染症や腎機能障害などの二次災害が起こらないように、できるだけ正常な排尿状態に近づけることを目指します。