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夜間頻尿

目次

夜間頻尿とは

夜間、排尿のために1回以上起きる症状を夜間頻尿といいます。健康な人でも夜間に1回起きることがありますので、臨床上問題となるのは、夜間2回以上起きる場合と考える事が多いです。夜間頻尿に悩む人は加齢とともに増えて、起きる回数も増加します。夜間頻尿が続くと慢性的な睡眠不足になり、昼間に眠気や疲労感が生じて、生活リズムに支障をきたします。夜間2回以上排尿に起きると、寝ぼけた状態でトイレに行くので、転倒して骨折するリスクが高いといわれています。

夜間頻尿の頻度

40歳以上の男女の約4,500万人が、夜間に1回以上トイレのために起きているというデータがあり、多くの人が夜間頻尿に悩んでいます。また、夜間排尿回数は男性の方が女性に比べて多く、70歳以上になると半分以上、80歳を越えるとほとんどの人が夜間2回以上排尿のために起きているという報告もあります。

夜間頻尿の原因

夜トイレに起きるのは年のせいとあきらめている人も多いのではないでしょうか。夜間頻尿の原因は加齢以外にもさまざまあり、治療すれば治る可能性があります。

夜間頻尿の原因は大きく分けて次の3つがあります。

① 多尿および夜間多尿(夜間に尿量が増える)
② 膀胱容量の減少(前立腺肥大症や過活動膀胱など)
③ 睡眠障害・不眠

この3つの原因はすべて治療法が異なるので、まず夜間頻尿の原因をはっきりさせることが大事です。また、夜間頻尿の患者さまは、この3つの原因のうち、2つ以上持ち合わせていることが多いです。とくに夜間多尿がある場合、薬物治療では効きにくいケースも多く、飲水指導などのセルフケアの指導が中心になることもあります。

夜間頻尿の治療

自分でできるセルフケア

日光浴

午前中に日の光を浴びて、からだをしっかり動かしましょう。太陽の光を浴びるとメラトニンという睡眠ホルモンの分泌が低下して、眠気がとれますし、からだのリズムが良くなり、安眠につながります。
昼寝はほどほどに
昼寝をするなら、午後1~3時ごろまでに30分以内にすることがおすすめです。この時間帯は本来の睡眠リズムでも眠くなる時間ですし、30分以内なら浅い睡眠から覚醒するので目覚めが良いです。

適度な運動

寝る3時間前に30分ほどの軽い運動(散歩や掃除)がおすすめです。夕方や夜間の運動は、昼間に貯留した水分を血管内に戻し、汗として体外に排出する作用があります。運動をすることで、ほどよい疲労感も得られて、ストレス解消になります。また体温が下がると入眠しやすいので、運動で体温を少し上げて、寝るころには体温が下がり寝入りがよくなります。

利尿作用のある飲み物を控える

コーヒーや緑茶には利尿作用があり、尿量が増えます。日中に適量飲むようにし、夕方以降は控えましょう。

自分の排尿状態をチェックする

夜間頻尿の治療で最も大切なことは、自分の排尿状態を見て、夜間多尿がないかなど夜間頻尿の原因を知ることです。自分の尿が、多尿か頻尿かなど、他の人と比べる機会はありませんので、まず排尿の記録(排尿日誌)をつけてもらうことになります。

排尿日誌は、いつトイレに行き、どのくらい尿が出ているのか、を書いてもらうことで、夜間頻尿の原因を知る重要な情報になります。排尿時に、古くなった計量カップや自分で目盛りをつけたカップを用意して、24時間分の尿量を量って、時刻ともに記録していきます。外出しない日に行うことが理想ですが、難しい場合は飲水量とトイレの回数をメモするだけでもいいです。

夜間の排尿において、毎回十分な排尿量がある場合(だいたい200-300ml/回)は多尿もしくは夜間多尿による夜間頻尿、また1回排尿量(膀胱に溜めることができる膀胱容量)が少ない場合(100ml/回以下)なら膀胱容量の減少による夜間頻尿と考えられます。

1回排尿量が正常で、就寝後から朝までの尿量が多いときは、夜間多尿が夜間頻尿の原因であるとわかります。

① 夜間多尿がある夜間頻尿

夜間頻尿に関連する多尿には,24 時間尿量が多くなる多尿に伴う夜間多尿と夜間の尿量だけが多い夜間多尿があります。いずれの場合も、過活動膀胱や前立腺肥大症の治療薬だけでは改善しないケースが多くあります。過活動膀胱や前立腺肥大症の治療薬に加えて、多尿および夜間多尿の治療が必要になります。

1.多尿による夜間頻尿

1日24時間の尿量が多くなるために、夜間トイレに何度も起きる頻尿です。多尿の定義は1日の尿量が40ml/kgを超える場合(たとえば60kgの人は尿量2,400ml)とされています。ちなみに、健康な大人の尿量は1日あたり1.0~1.5Lです。

多尿の原因となる病気は、以下のようにさまざまあります。

水分の過剰摂取

心因性多尿、口渇中枢障害(脳腫瘍・脳炎後)、薬剤性(抗コリン薬・クロルプロマジン)など
水の再吸収障害(抗利尿ホルモンの機能低下);尿崩症、慢性腎盂腎炎、低カリウム血症など

浸透圧利尿

利尿薬、糖尿病、SGLT2阻害薬(糖尿病治療薬)、急性腎不全など

腎機能障害では、尿の濃縮力が低下するため尿量が増えて、また摂取した水分を速やかに排泄できなくなるので、夜間も尿量が増加します。糖尿病では、尿中に糖分が増えて、浸透圧利尿(尿中に水分を引き込む力)の影響で、尿量が増えます。腎機能障害や糖尿病などの内科的な病気が原因となる多尿に伴う夜間頻尿では、基礎疾患の治療が優先されます。

2.夜間多尿による夜間頻尿

夜間頻尿の原因として、前立腺肥大症や過活動膀胱などの泌尿器科の病気をまず思い浮かべるかもしれません。泌尿器科の病気で夜間頻尿になる患者さまもたくさんおられますが、夜間頻尿の最も多い原因は夜間多尿です。夜間に尿の量が増えればトイレの回数も当然増えますし、膀胱の機能が正常でも夜間頻尿となってしまいます。

夜間多尿とは

夜間頻尿は、65歳以上の方で、夜間(寝てから起きるまで)の尿量が1日全体の尿量の33%を超える(若年者では20%)場合と定義されています。

つまり夜間多尿とは、夜間の尿量が1日の尿量の3分の1以上になり、その結果トイレに起きてしまう状態をいいます。
(ただし、この定義では多尿の患者さまを除外しております。)

原因

① 寝る前の水分過剰摂取

脳梗塞や心筋梗塞の予防のために水分を多く摂りなさい、とかかりつけ医や家族から言われ、夕食後や寝る前に水分をたくさん飲んでいる患者さまをよく見かけます。夜間の脱水予防のため寝る前に水分を取るのはいいのですが、過剰に水分摂取すると、これは夜間多尿の大きな原因となります。夜間の水分補給は血液の粘稠度(ドロドロの度合い)を下げても, 脳梗塞を予防するという証拠にはならない、という報告もあります。つまり夜間の水分補給だけでは脳梗塞の予防にはつながらない、ということです。適切な飲水指導については後ほど説明します。

② 高血圧、心不全などの心血管系の病気

健康な人は夜間に血圧が低下しますが、高血圧の患者さまや夜間の血圧低下の少ない高齢の方は夜間尿量が増加するといわれています。高血圧になると、日中に血管を収縮させるカテコラミンというホルモンが多く分泌されるので、腎臓への血流が悪くなり、尿の量が減ってしまいます。その代わりに、夜間では相対的に腎臓への血流が増えて尿がたくさん作られるためです。

また心不全や加齢で心機能が低下すると、立位が多い日中は下半身を中心に水分がたまり、下肢のむくみが生じます。夜間に横になると下肢にたまった血液が心臓に戻ってきて、腎臓への血流が増え夜間の尿量が増えるといわれています。夜間頻尿や夜間多尿から高血圧や心不全がみつかるケースもあります。

③ 睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に呼吸が一時的に止まってしまう状態を繰り返す病気で、いびきをかく人によくみられます。睡眠時無呼吸症候群と夜間多尿とは一見関係なさそうに思われるかもしれません。

睡眠時無呼吸症候群になると眠りが浅くなり、抗利尿ホルモンが分泌されにくくなります。また、睡眠時無呼吸症候群では、無呼吸後に息を吸い込むと静脈の血液が大量に心臓に戻ることで利尿状態が生じ、夜間多尿を起こします。

睡眠時無呼吸症候群には、気道の閉塞を伴うものと伴わないものがあり、このうち閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は高血圧と関連性が強いです。健康な人では寝ているとき副交感神経が優位になり血圧が低下しますが、OSASの患者さまは入眠中に呼吸が止まり、また呼吸を再開するパターンを繰り返すため、交感神経が常に優位になります。そのため、高血圧となり、夜間多尿を引き起こします。

睡眠時無呼吸症候群に対してはCPAP(シーパップ)という鼻につけるマスクによる治療が有効なので、その際には専門科へ紹介させていただきます。

④ ホルモン(抗利尿ホルモン)バランスの乱れ

若いときに、夜中何時間もトイレに行くことなく熟睡し、朝起きて排尿すると非常に濃い尿がでていたという経験があると思います。これは、これは寝ている間に抗利尿ホルモンが脳から分泌されるためです。抗利尿ホルモンは、文字通り尿量を減らすホルモンで、夜間に多く分泌され、尿中の水分を減らして尿を濃縮して尿量を制限します。そのため、夜間は排尿しなくてすみ安眠できるようになります。しかし、加齢とともに抗利尿ホルモンの分泌バランスがくずれ、このホルモンが昼間に分泌されるようになると、昼間の尿量が少なくなり、夜間はホルモンが分泌されないため尿量が増えて起きる回数が増えます。

⑤ アルコール、カフェイン、薬剤性

アルコールやカフェインは抗利尿ホルモンの分泌をおさえて利尿作用があるので、これらを寝る前に摂取しすぎると夜間多尿になります。

夜間多尿をきたしやすい薬剤として、降圧薬であるカルシウム拮抗薬があげられます。カルシウム拮抗薬は下肢の浮腫を生じることがあり、そのため夜間多尿になることがあります。

夜間に抗コリン薬、クロルプロマジンなどを服用すると、口が渇いて水分を多く摂ってしまうことがあります。

その他にも排尿に影響を与える薬剤はたくさんあるので、夜間多尿で受診されたときには、お薬手帳で他科での処方薬剤、用量用法などを確認させていただきます。

夜間多尿の治療

① 飲水指導

上で述べましたように、夜間の過剰な水分補給は脳梗塞の予防を医学的には証明できていないので、夜間の過剰な水分摂取は控えるべきです。

1日の適切な飲水量は、体重の2~2.5%で計算します。たとえば、体重60kgの人は2~2.5×1/100×60kg×1000=1.2~1.5リットルとなります。また、適切な一日尿量は20-25ml/kgで計算します。たとえば、60kgの人で1200-1500ml程度が一日尿量となります。2000mlも尿がでていれば明らかに多尿となります。

ただ、以上の設定は運動して汗をかく場合を含めていません。特に夏場なら熱中症のリスクもあります。また、心臓や腎臓の病気がある人は飲水量を制限されている場合もあります。さまざまな状況に応じて飲水量を調整する必要がありますので、ぜひ当院へご相談ください。

②塩分制限

塩分を摂りすぎると喉が渇いて、お水をたくさん飲みたくなります。水分をたくさん摂取することで、血液中の塩分を薄めます。また、腎臓が過剰な塩分を尿として出そうと頑張ります。そのため、塩分を摂りすぎると多尿になります。夜間多尿の患者さまは1日6g未満の塩分制限を目標にしています。

③薬物療法

a. デスモプレシン

この薬剤は夜間多尿の男性患者さまに保険適応となっています(残念ながら女性には使用できません)。デスモプレシンは、上で述べた抗利尿ホルモンの合成アナログ製剤で、眠前に内服することにより抗利尿ホルモンと同じように尿を濃くする作用があり、夜間の尿量を減少させる効果があります。注意点は、心不全の患者さんには使用できません。この薬剤を内服してもらう前に採血検査を行い、内服できるかどうか確認することが必要です。

b. 利尿剤

女性にはデスモプレシンが使用できないため、利尿剤を昼から内服してもらうことがあります。寝るまでに尿を強制的に排泄して、夜間の尿量を減少させるのが狙いです。

② 夜間多尿がない夜間頻尿

a.膀胱容量の減少(膀胱蓄尿障害)

夜間多尿がない夜間頻尿は、膀胱蓄尿障害をもつ泌尿器科の病気が関係している場合が多いです。膀胱蓄尿障害とは、膀胱が少量の尿しか貯められない状態です。膀胱は筋肉でできていますが、加齢によって筋肉のしなやかさが失われると、膀胱があまり広がらなくなります。そのため膀胱内にためられる尿の量が減り、夜間頻尿になってしまいます。膀胱が小さくなった場合、1回の尿量が200ml以下のことが多いです。

原因の1つは過活動膀胱です。昼間の頻尿や尿漏れを合併していることも多いです。男性の場合は前立腺肥大症を合併していることが多く、男性の夜間頻尿では前立腺肥大症の有無を調べる必要があります。

このタイプの夜間頻尿は、過活動膀胱や前立腺肥大症に対する薬物療法で改善することが期待できます。
また、中高年女性に多い骨盤臓器脱や間質性膀胱炎でも夜間頻尿になることがあります。

過活動膀胱はこちら

前立腺肥大症はこちら

間質性膀胱炎はこちら

骨盤臓器脱はこちら

b.睡眠障害

ぐっすり眠れた日は夜間トイレに起きない、という場合の夜間頻尿はこのタイプになります。尿がしたくて目が覚めるのではなく、睡眠障害のために何度も目が覚めてしまい、その都度トイレに行きたくなるという状態です。睡眠障害があると睡眠物質のメラトニンが低下して、浅い眠りになるため少しの刺激で尿意が起こり、夜間頻尿となります。そして、抗利尿ホルモンの分泌量低下にもつながるため、睡眠障害は、夜間頻尿の原因と結果のどちらにもなります。

睡眠障害による夜間頻尿に対して、睡眠障害に対する内服治療が有効です。最近新しい睡眠薬が登場し、睡眠薬を服用した高齢者の転倒リスクを軽減できるような安全性の高い薬剤も増えてきました。

また睡眠薬も有効ですが、よく眠れるような日常生活の環境整備や生活リズムの改善も大切です。

注意点

夜間頻尿は年齢とともに発症しやすいですが、生活習慣を見直すことで改善できる場合もあります。自分にできそうなセルフケアを積極的に取り入れていきましょう。ただし、糖尿病、高血圧、心不全、腎機能障害、睡眠時無呼吸症候群など、一見夜間頻尿と無関係に見えて、実はとても関係している病気が隠れている場合もあります。年齢のせいだからとか、恥ずかしいなどと思わず、ぜひ泌尿器科にご相談ください。

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